2025年 11月13日
「出生情報を得る苦労を養子に負わせるのはおかしい」 養子が自ら語る「出自を知る権利」YouTubeで発信も
生みの親と暮らせない子どもが家庭を得る手段として国が普及に力を入れる特別養子縁組。施行から40年近く経ち、養子が自らの出自を知る権利の保障が議論されている。当事者の養子たちも発信を始めた。AERA 2025年6月23日号より。
日本の養子縁組は長い間、家族の私的な営みとして扱われてきた。特別養子縁組は、成立すると実親との親子関係は断絶し育て親が法的にも唯一の親となる。戸籍には「養子」ではなく「長男」「長女」と記され、血のつながりがないことを伝える「真実告知」をしない親も少なくなかった。
2016年の改正児童福祉法は1947年の制定以降初めて子どもを権利の主体と位置付けた。すべての子どもは適切に養育され、愛され保護される権利を持つこと、実親による養育が困難な場合は里親や養子縁組など家庭養育を優先することが明記され、特別養子縁組は児童福祉の施策と認知されるようになった。そんな社会の変化のもと、自ら発信を始めた当事者たちもいる。
静岡県の会社員、志村歩さん(26)、Yusukeさん(25)ら成人養子が本音で語るYouTube番組「Origin44チャンネル」。時には養親や有識者らをゲストに迎え、養子縁組に関する様々なテーマを扱ってきた。
「生みの親に手紙を書きました。しっかり生きてますという生存確認のようなものです」
「僕は生みの母の名前しか知らないし、今後も直接やりとりすることはないと思う。あえて手紙を書くなら『産んでくれてありがとう』かな」
「親を知る権利」がある、出生情報の一元管理を
ルーツ探しや真実告知など重くなりがちな話題も自然体で語られる。最近特に関心が高かったテーマが「出自を知る権利」だ。弁護士が戸籍や除籍の解説をし、視聴回数は350回を超えた。「特別養子縁組では実親との関係は断絶するので、正当な理由がない限り生み親の戸籍は請求できません。ただ、養子の皆さんには『親を知る権利』がある。私は正当な自己の権利の行使になると思います」。弁護士の言葉に養子たちは神妙な顔をして聴き入った。

養子縁組の記録は戸籍のほか、縁組審判の調査報告書や審判書にも記される。ただし調査報告書は5年、審判書は30年で破棄され、ケースによって得られる情報の多寡も異なる。養子が成人した時、どれだけの情報が手元にあるかは各家庭や関係機関の裁量による部分も大きい。
Yusukeさんは自分の縁組を仲介した児童相談所に出生の情報を求めに行ったが、生み親の情報は「個人情報なので本人の同意がないと教えられない」と言われたという。調査報告書はすでに廃棄されていた。志村さんは「養子縁組は子どもの選択ではないのに、出生情報を得る苦労を養子に負わせるのはおかしい。公的な機関が情報を一元管理すれば多くの当事者の安心感につながるのでは」と話す。
志村さん自身は生後8カ月で縁組され、幼い頃から養子だと聞かされていた。自分を10代で産んだ母の名前や出身地は知っているが出自の経緯にはあまり興味はないと言う。「今に満足しているし、知ったところで過去は変わらない」。ただ自分の出自を知ることは誰もが持つ権利だと考えている。「生みの親と育ての親が同じ人は家族や親戚から当たり前に出生の情報を聞けますが、私たちはそうではありません」(志村さん)
特別養子縁組は基本的に大人の判断で成立し、当事者の子どもはそのプロセスに加わることができない。「だからこそ、当時どんな状況でどのように成立したかを子どもが後から確認できる仕組みが必要です。自分が判断していないことで人生に見えない部分があることに非常に強い違和感を覚えます」と志村さんは話す。
「出自を知る権利」は日本も批准する国連子どもの権利条約に規定されている。国内には明文化する法律がないが、当事者による研究や発信活動は海外で盛んに行われてきた。
養子のアイデンティティー、深い孤立感を覚えることも
韓国で生まれ幼い頃に白人家庭の養子になった米マサチューセッツ大学アマースト校のホリー・マギニス博士(社会福祉学)は、様々なルーツを持つ養子への調査から、幼少期の体験や他の養子との交流が養子の自己形成や心身の健康にどう影響するかを調べ、その多様な人生を描く研究プロジェクトに取り組んでいる。

博士はこう指摘する。「人はみな父と母から生まれ大多数はその親に育てられますが、養子は自分が大多数と違うことに時に深い孤立感を覚えます。私自身も葛藤を経て養子の仲間と出会い、共に活動することで自分の経験を社会に還元したいと思うようになった。この研究が、養子たちが豊かな人生を送る一助になればと願っています」
国内では、生殖補助医療で生まれた子や、妊娠を知られたくない女性が匿名で出産する「内密出産」でも同権利の保障をめぐる議論が続いている。内密出産を行う熊本市の慈恵病院が同市と設置した検討会は今年3月に報告書をまとめ、国による権利の保障と法制化、出自情報の一元管理や開示ルールの設計を提言した。養子縁組の家族形成を25年にわたり研究し、検討会の座長を務めた日本医療大学の森和子教授(児童家庭福祉)は言う。
「養子は共に暮らす養親と記憶にない実親という2組の親を持つ子としてアイデンティティーを形成していく。実親から譲り受けた遺伝的情報と実親に関する情報の欠落は自己の形成の阻害要因になることがあります。一方で緊急下の妊娠・出産では母子の命と健康を守るため産む側のプライバシーを十分に尊重する必要があり、二つの権利を保障する丁寧な対応が求められています」
検討会の調査では養子たちからピアサポートを求める声が多く出たという。1歳の時、民間の養子縁組団体の仲介で育て親家庭に迎えられた千葉県の会社員、中村力(りき)さん(23)は「自分の経験が誰かの役に立つなら」との思いから、志村さんらと「特別養子当事者団体ツバメ」を結成した。住む場所や縁組の経緯に関わらず、養子同士の交流を増やしていきたいという。
(ライター、社会福祉士・後藤絵里)
※AERA 2025年6月23日号より抜粋